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行政書士ミヤシンの800字映画評

映画の感想を原稿用紙1〜2枚分でコンパクトに。ときどき書評。たまに・・・。

映画「あなたを抱きしめる日まで」

映画

☆何から何まで違う二人が☆2014年3月公開作(2014年3月記)

     10代の「過ち」で生んだ未婚の子。アイルランドの修道院が米国の養父母に売ってしまった。息子を探し求める老女と同行するベテラン記者。

   「最後の最後で辿り着いた息子は死んでいた」というつくりにせず、何年も前に死んでいることが中盤であっさり分かる。その分、二人の心の揺れが深く描き込まれた。

      オックスフォード卒BBCの硬派記者だった彼は政界に転身するも失脚。上昇志向は失わず、まずは体力作りと始めたジョギングを米国同行中も欠かさない。上昇志向とは無縁の彼女。大衆小説を愛読し、レストランのサラダ食べ放題で山盛り取る庶民である。

   何から何まで違う二人。何より違うのは、失脚を企んだ者を許すことはなかった彼に対し・・・

  エイズ末期の息子が修道院まで彼女をはるばる訪ねて来ていたのに「過ち」の「罰」として再会を阻んだシスターを、彼女は赦した。「赦すことは苦しい」と言い添えて。

     人は責めずに、不可避だったとはいえ我が子を手放した罰としての「苦しみ」を自らに科したのだ。息子を探そうと決意した時から、そもそも息子を手放した時から、心が揺れ続けた(「過ち」を断じて許さないシスターさながらに、彼の不信心を罵ったことも)末に。

   気高い精神を目の当たりにした彼は、再起を期す野心からあえて「子の足跡を辿る母」という軟派ネタを追い当初は冷笑的だったが、彼女の思いを汲んで記事にするのを止めようとする(が、彼女は記事化も許した)。

  カソリック教会の「邪悪」が描かれ、プロテスタント保守派が有力な支持母体である米国共和党の同性愛に対する無理解も示されるが、反キリスト教映画ではない。彼女の精神は信仰心によってこそだったから。

  現実の人生とあり得た人生。厳格な養父とはあまりいい関係でなかった息子にとっても。実母の元に留まっていたら米国で果たした「成功」はなかっただろう。しかし、留まっていれば包まれていたであろう「幸せ」は知ることがなかったに違いない 。