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行政書士ミヤシンの800字映画評

映画の感想を原稿用紙1〜2枚分でコンパクトに。ときどき書評。たまに・・・。

2015年日本アカデミー賞優秀作品賞「百円の恋」(安藤サクラ主演)

  ボクシングを扱った映画で激しく息が上がるトレーニングシーンは定番と言えようが、劣勢の試合での呼吸が止まりそうなほどの苦しさを表現しきった安藤サクラの本作は類がないのではないか。

 腫れ上がった顔に煙草を咥え彼女以外にはできないであろう表情。そのポスターを見ての大きな期待を大きく上回る快演だった。筋が多少なりとも似ているものの日本版「ロッキー」あるいは「ミリオンダラーベイビー」では決してない。唯一無二の、「百円の恋」である。
 32歳の斎藤一子(安藤)は「バカ短大」(妹の言)を卒業後、実家でまるっきり無為に過ごしていた。男性経験も、ない。妹との大喧嘩を契機に初めての一人暮らしを始める。初めての労働である100円スーパーでのぬるくかつ愉快ならざる日々、37歳のマイナーなボクサー狩野との同棲と別れ。
 いつしか。緩んだ体にダラッとした動きだった一子が、締まった体にシャープな動きでトレーニングに励む一子になっていた。エキサイティングな音楽を聴いているかのような、「転調」の鮮やかさは上記二作以上と言っても過言でない。
 もちろん心の「転調」があればこそ。初めて見るボクシングが、狩野の年齢制限による最後の試合。殴り合った試合を終えると一転して肩を抱き互いを称えあう。「もともと仲良しだったのですか」と不思議がる一子。長年のあいだ人と真正面から向き合うことがなかったであろう彼女には強烈な驚き。ボクシングに魅かれていった。そのあたりの内面表現もとてつもなく上手い。
 このストーリーでボクシングとくればベタになりかねない。ボクシングでなければならなくなり得たのは、なによりもまず安藤の演力ゆえだろう。それが凄すぎて、好演していた共演者たちが印象深く残らないのが言いがかり的な欠点か。
 スーパー店内に繰り返し流れるユルーイ「♪ひゃくえん、やすい~」とラストのアップテンポな曲が効いていた。

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