深谷敏雄『日本国最後の帰還兵深谷義治とその家族』集英社、2014年
1915年生れの深谷義治さんとその家族が
「戦争」ゆえに辿ってきた凄絶な年月を
義治さんの次男 敏雄さんが
父の視点と息子の視点 両方向から再現。
大陸で中国人を装って陸軍の諜報活動に従事していた義治さんは
1945年8月15日以降も「上官の命令」により活動を続けた。
その科により58年 中国当局に逮捕され、虐待レベルの処遇(含拷問)で獄中20年間。78年に特赦され家族共々日本に帰還した。
無条件降伏後の「活動」継続は明らかな国際法規違反。「日本国の名誉を傷つけないため」義治さんは黙秘を通した。本書でも「活動」の具体的内容と日本のどのレベルで「情報」が「活用」されたのか(されなかったのか)は明かされない。
義治さんの妻子も「文革」期を含む20年間 「反革命分子」の家族として様々な凄まじい迫害を受け、敏雄さんの兄も投獄された。
そんな「深谷義治とその家族」が 苦難と言っては言葉が軽すぎるほどの状況(帰還後も別の性質の苦難が!)を乗り越えてきたのは
「活動」のために中国社会に同化しようと結婚した中国人の妻、同じ「目的」もあって設けた3男1女でありながら
強く深い夫婦愛親子愛家族愛(こちらも言葉が軽すぎる)があればこそでもあった。
430ページ余を読み終えて 冒頭の帰還後の一家団欒の写真をもう一度見たとき胸が詰まる思いがしました。
敏雄さんの娘さんが 自分が伝えられることを綴りたい、と短い一文を寄せています。
この一家と比べるべくもないのは言うまでもなく
もっともっと苦労された方はたくさんいらっしゃるとも思いますが
私の父は 15歳で海軍に終戦の年入り、母は「満州」からの「引き揚げ」で多少なりとも、、、
そんなこんなを
たとえ僅かでも語り継ぐことは
直接耳にした最後の世代かもしれない我々年代の「責務」と思います。