この作品だけでもスピルバーグが反トランプなのが頷ける。長らく観たいと思っていた、2004年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督作。
公開された年は、2001年911テロのあと米国内(に限らず)の「分断」が取りざたされていた頃。その15年ほど前には共産主義体制が次々と崩壊、ユーゴ紛争の90年代も経ていた。
そんな時代背景。移民制限強化など政治の動きはそれとして、人種民族の違いに対するオープンマインドは米国社会に根付いているはず!とのメッセージが本作から強く感じられる。
東欧圏からニューヨーク国際空港に降り立ったビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)。出国後のクーデター勃発によりパスポートが無効に。米国に入国できず、空港ターミナルで暮らすことになる。何日も何週間も何ヶ月も。愉快な騒動を引き起こしながら、いつしか非日常が「日常」になっていった。
他ならぬニューヨーク の国際空港は、言わば「人種のるつぼ」。乗降客が世界中から行き来するばかりでない。そこで働くスタッフもホワイト、アフリカ系、ヒスパニック、インド人、東洋人。米国生まれも移民もいる彼ら彼女らに、肌の色で相手を見る人間は一人もいなかった。事なかれ主義ゆえビクターを留め置こうとしたり追い出そうとしたりの入国審査責任者さえも。
同監督の2005年公開「ミュンヘン」がいわゆるシリアスな社会派だったので本作もそのようだろうと思い込んでいたが、さにあらずでハートウオーミングなコメディタッチ。終盤、恋心を抱いたCAに来ニューヨークの目的を明かし、ラストでその目的を果たす。とても「気」のいい映画でもあった。
ビクターが語った来ニューヨークの目的は、1958年のハンガリーに遡る。すなわち、市民の反乱がソ連に抑え込まれた「ハンガリー動乱」の2年後である。脚本も細かいところまで行き届いていた。