小ぶりの水槽に三分の一ほど土が盛られていて、その中にカブトムシの幼虫が一匹いるというのである。四半世紀前の6月、掃除道具を探しに行った近所のホームセンターで目に飛び込んできた。オスかメスかはわからないという。私は子供の頃から大の昆虫好き。息子の情操教育のためと称して、ワンコインで買い求めた。結局、息子が興味を示すことはなかった。
今か今かと私だけがワクワクしていた7月終わりのある朝、とうとう成虫が姿を現した。オスだった。すばらしく立派なツノである。さっそくキュウリの切れ端をあげた。
ところが、翌朝はメスがいた。メスとてツノこそないもののなかなかの見映え、まずはキュウリをあげた。だけど?
数日間、朝オスがいる→夜になると土に潜る→翌朝メスがいる→ を繰り返した。
??? 一匹のはずである。それともサービスあるいは間違いでオスメス二匹がいたのだろうか。そして何か生態上の理由で一匹が地上にいる間一匹は地中にいるのだろうか。
意を決して日曜日に4時起きした。
やがて土からツノが突き出てきた。ん?昨日もオスだったが。
すぐに全身が地上に現れた。何度見てもカッコいいフォルムだ。
空が明るくなりかけたとき。
わずかに上体を起こして、両前足でツノを外した。
たしかに一匹だった。