いま私たちが容易くできることすべきことが少なくとも一つあると思います。汚い言葉で人を罵しらない! そのような言説に決して同調しない! ことだと私は思います。
4月15日に朝日新聞デジタルに掲載されたハラリ氏のインタビュー。氏の意見が正論であることは多くの人が認めるだろうと思います。カッコつき「正論」に過ぎないというムキもあるかもしれませんが、正論の軸は絶対に動かしてはならないと思います。
当面の間として朝日新聞デジタルは、私のような無料会員も有料記事を読めます。しかし、ログインはしなければなりません。コロナ禍の今だからこそ「有料記事の無料公開」が行われている趣旨に鑑み、「無料」の冒頭に続く「有料」部分の全文を引用します↓
「日本や韓国、台湾のような東アジアの民主主義は、比較的うまく対処してきました。感染者や死亡者の数は低めに抑えられています。しかし、イタリアや米国は同じ民主主義でも、状況ははるかに悪い」
――どちらの政治体制が望ましいとも言えないわけですか。
「現状では、独裁と民主主義が生む結果の間に明白な差はないようにみえます。しかし、長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できるでしょう。理由は二つあります」
「情報を得て自発的に行動できる人間は、警察の取り締まりを受けて動く無知な人間に比べて危機にうまく対処できます。数百万人に手洗いを徹底させたい場合、人々に信頼できる情報を与えて教育する方が、すべてのトイレに警察官とカメラを配置するより簡単でしょう」
――市民への監視や管理を強めた中国の手法が成功例とされることは、どう考えますか。
「新技術を使った監視には反対しないし、感染症との闘いには監視も必要です。むしろ、民主的でバランスの取れた方法で監視をすることもできると考えます」
「独裁体制では、監視は一方通行でしかない。中国では、人々がどこに行くのかについて政府は知っていますが、政府の意思決定の経緯について人々は何も知りません。これに対し民主主義には、市民が政府を監視する機能がある。何が起き、誰が判断をして、誰がお金を得ているのかを市民が理解できるなら、それは十分に民主的です」
――日本は私権の制限に慎重で、民主主義を守りながら対応をしています。しかし国民が不安に駆られ、より強い政府を求める声も出ています。
「政府に断固とした行動を求めることは民主主義に反しません。緊急時には民主主義でも素早く決断して動くことができる。政府からの情報を人々がより信頼できるという利点もある。政府が緊急措置をとるために独裁になる必要はありません」
グローバル化、弊害より恩恵
――感染が一気に拡大したのはグローバル化の弊害だという指摘をどうみますか。
――各国は国境を封鎖し、グローバル化に逆行しているようにも見えます。
「国境封鎖とグローバル化は矛盾しません。封鎖と同時に助け合うこともできます。願わくば、家族のようになれたらいい。私は自分の家にいて、2人の姉妹も母もそれぞれの家にいます。会わないけれども毎日電話し、危機が過ぎたら再会したいと願っています。国家間も同じだと思うのです。確かにいまは隔離が必要です。でも憎しみや非難の心ではなく、協力の心のもとで隔離するのです」
――グローバルな協力が必要だとすれば、世界はどんな姿を目指すべきでしょうか。
「人類はもはや米国に頼ることはできません。でもそれは、いいことかもしれない。1カ国の信頼できないリーダーがいるより、世界のために異なる国々が集合的なリーダーシップをとることを目指すのです」
「一部の国はいま、医療だけでなく経済的な危機にあります。米国が2・2兆ドルの経済対策を打ち出したように、日本やドイツなど先進国は大丈夫でしょう。しかし、流行に対処するための国力が足りない国もたくさんあります」
――一方で、米国の動きはどう見ますか。
「トランプ大統領が世界保健機関(WHO)を非難し、資金拠出をやめると脅したことには失望しました。トランプ氏は、米国で惨事が起き始めていることに気づいているのでしょう。いずれ、誰かが失敗の責任を問われることになる。中国や日本よりも長い準備期間があったのに、米国は何もしなかったからです。グローバルな対策だけでなく、自国のためにも無策だった。トランプ氏は非難されることを恐れ、スケープゴートを探しています。WHOを責め、自身への非難を避けようとしているだけです」
世界が、我々が立つ分岐点
――協調が必要だとはいえ、各国は自国内の対応で精いっぱいかもしれません。
「1918年のスペイン風邪の流行は一度では終わりませんでした。18年春には第1波が世界中で流行しましたが、死亡した人は少なかった。その後、ウイルスが突然変異し、18年夏から感染が広がった第2波で死亡率は5~10%、国によっては20%に上りました。さらに第3波もありました。一つの国が感染に苦しんでいる限り、どの国も安全でいることはできない。これが、我々が直面している最大の脅威なのです」
――日本を含め、多くの国では感染防止と経済活動とのバランスにも苦慮しています。
「私は経済の専門家ではないのですが、自国のことだけでなくグローバルに物事をとらえることが重要でしょう。もちろん、日本政府はまずは自国民の経済状況を考えなければならない。しかし、経済大国として他国のことを考える責任もあると思います」
「日本が自国民に提供できることを、インドネシアやフィリピン、エジプトやアルゼンチンの政府は国民に提供できないからです。グローバルな経済プランを立てなければ、問題を抱える国が崩壊するだけでなく、世界全体に悪影響が広まってしまいます」
――今回の感染症は、主に先進国でまず広まっていますね。
「それは、先進国が経済活動や旅行などで最も強く結びついているからでしょう。しかし、いまや世界中に感染が広がりつつあります」
「感染は中国から始まり、東アジア、欧州、そして北米へと広まった。最悪の事態は感染が南米、そしてアフリカや南アジアに到達した時に起きるかもしれません。イタリアやスペインが医療体制の問題で流行に対処できていないとすれば、エジプトの体制はスペインよりもはるかに悪い。経済についても同じです」
「我々はまだ最悪の事態に達していないのではないでしょうか。今後1~2カ月で南米やアフリカ、南アジアでの感染率や死亡率が、欧米よりも悪い状況になる恐れは十分にあります」
――感染の広がりを受け、世界にはどんな変化が起きているのでしょうか。
「危機の中で、社会は非常に速いスピードで変わる可能性があります。よい兆候は、世界の人々が専門家の声に耳を傾け始めていることです。科学者たちをエリートだと非難してきたポピュリスト政治家たちも科学的な指導に従いつつあります。危機が去っても、その重要性を記憶することが大切です。気候変動問題でも、専門家の声を聞くようになって欲しいと思います」
――よい変化だけでしょうか。
「悪い変化も起きます。我々にとって最大の敵はウイルスではない。敵は心の中にある悪魔です。憎しみ、強欲さ、無知。この悪魔に心を乗っ取られると、人々は互いを憎み合い、感染をめぐって外国人や少数者を非難し始める。これを機に金もうけを狙うビジネスがはびこり、無知によってばかげた陰謀論を信じるようになる。これらが最大の危険です」