南北アメリカ大陸の、主に熱帯地域に生息するハキリアリ(葉切り蟻、Leaf cutting ant)。緑の葉を担いで列をなして行進する様子を 映像や画像で見たことがある人も多いと思います。
ハキリアリはその葉を食べるのではありません。巣の中に運び入れた葉に菌を植え付け「栽培」して、その菌を主食にしているのです。「肥料」(自らの糞)を与え、「衛生管理」も施します。
それはまさしく「農業」に他なりません。
葉を切り取る係、切った葉の運搬係、運搬する「アリ道」の整備係、菌のメンテ係、ゴミ処理係、(専守防衛の)兵士、幼虫とさなぎの世話係、女王のお世話係。
数百万匹にもなる集団での役割は、主に体のサイズから別れます。
システマティックに分業する、それら働きアリはすべてメス。オスは女王アリとの交尾専業です。
「農業」を人類より5,6千年も早く始めていたとのこと。本書では「農業」以外にもハキリアリの合理的な「知恵」が次々に示されます。「知性を持つ唯一の生き物は人間」と威張ってばかりもいられなくなりそうです。
人間との関係では、大量の葉を切り取るハキリアリは農耕地では害虫ともみなされます。
バート・ヘルドブラー、エドワード・O・ウイルソン著、横山あゆみ訳、飛鳥新社、2012年発行(原著は2011年)。
葉切りや運搬等「仕事中」の他、ハキリアリの様々な生態を捉えたカラー写真がふんだんに収録されています。
最近「不思議な生き物」として「キノコを育てるアリ」という言われ方をします。もちろんキノコは菌に他なりませんが、ハキリアリが「栽培」しているのは 私たちがキノコと聞いて思い浮かべるシイタケのような笠を持つ「キノコ」ではありません。本書では一貫して「菌」と記されています(「キノコ」ではなく)。