2019年発行。河合隼雄文芸賞も受賞した。著者は文化人類学者で、立命館大学大学院教授である。
香港の地で、綱渡り的でもあるいろいろな商いを行うタンザニア人たちに食い込んだノンフィクション。いま「食い込んだ」と書いたが、「いろいろ」の中にはあるであろう非合法には立ち入らない身のこなしを彼ら彼女らに倣って著者は体得する。つまりはそれほどに食い込んだからこその、読み応え。
件のタンザニア人たちの生き方は現代日本人にとっても示唆深いのでは?と著者は考察を進める。
とりわけ密着する「ボス」(顔写真↑)が主に手掛けるのは中古車の売買。買い付けに来たアフリカ人に中古車を斡旋するばかりでなく物心両面にわたって至れり尽くせりの世話もするのだが、そうしたやり方そのものに対して少々驚きすぎでは?と思わないでもなかった。
およそ商いは顧客が欲する品を納入するだけで済むものではない。情報提供から接待まで諸々の「至れり尽くせり」があって初めて取引が成る。それはごくふつうのことある。
著者は「ボス」らの仕事を「(お互いに馴染みのないアフリカ系顧客と中古車業者の間の)『信用』を肩代わりすることで、『手数料』『マージン』をかすめとる仕事」といった書き方もするが、「信用の肩代わり」自体もふつうのことである商いの世界でマージンを「かすめとる」などとは言わないであろう。
「ボス」らの場合はやり方の一つ一つがユニークであるし、異国の地でしかも徒手空拳で生き抜くという要素がきわめて大きいのはもちろんだが。
「ボス」らの本国では生計が立てられる安定的な職が乏しいのだということにもあらためて思いを馳せさせられた。
#小川さやか
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