秋山千佳によるノンフィクション、2019年発行。
「実像」というタイトルはミスリードをもたらしかねないと思う。この点については後のほうで書く。
1934年生れ広島在住の中本忠子さんは保護司を務めていたときから現在に至るまで約40年にわたり非行少年たち(に限らず)に無償で食事を提供し、真正面から話に耳を傾け、彼ら彼女らの立ち直りをサポートしてきた。
本作ではその事例がいくつも紹介されている(各メディアでもしばしば取り上げられている)。
常人では到底でき得ない、献身的という表現ではあまりにも軽すぎるほどの活動。
その動機を著者は探り続けるのだが、この点について中本さん自身の口は重い。
著者は「動機」に拘る理由を記しているが、読み進みながら私にはなかなか合点がいかなかった。(書かれざる理由であろう)ジャーナリストに欠かせない健全な好奇心以上にはストンと胸に落ちなかった。
しかし最終章で、拘る理由がどうのといったことはどうでもよくなった。中本さんと中本さんの家族から信頼された著者が話してもらった「動機」は(著者ばかりでなく)私の胸にも深く沁み入るものだった。そのキーワードは「かなしみ」である。
さてタイトルの「実像」だが、「オモテの美しい虚像に対してウラのダーティな実像」といったニュアンスでの使い方が定番と言えるだろう。
しかし、本作で書き込まれた中本さんの実像はそのようなものでは決してない。タイトルは等身大の中本さんという意味合いで捉えるべきであろう。
装丁のカンナの訳は最後の最後に示されている。本作そして中本さんの象徴として、とても効いている。
本作でもう一つ印象に残るのは、前首相夫人安倍昭恵さんが中本さんの活動に共鳴して協力も行っているくだり。
昭恵さんに世間から批判があるのは周知の通りだが、中本さんは昭恵さんを一人の人間として信頼し、感謝する。会った人そのものを見る、と言うより「感じる」中本さんならではと言えるだろう。
著者は昭恵さんに対する厳しい目を保ちながらも、中本さんの昭恵さん観を尊重する。
ちなみに↓では、取材相手に小池氏を褒める人が一人もいなかったのだろうか?