『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』、文春新書、2020年発行。
自分史語り下ろし。「自分史」と言っても「あのときこう思った」調ではなく、数多い著書と手がけたテレビ番組をコンパクトに紹介しながら書かれざる執筆意図や裏話そして今あらためて考えることを喋り倒しています。
「知の旅」にとどまらずヨーロッパや中東など実際の旅にも出かけて思考を深めてきました。生まれてから社会に出るまでの史もタップリと。結婚二度、同棲複数回も赤裸々に(というほどでもないですが)。
ロジカルでありながらレトリックも巧み(『文藝春秋』最新号、元担当編集者による追悼文の評)な氏が書く文章さながらの語り約400ページ。
ただし、自分史語りというある種の気安さからか、聞き手とよほどウマが合ったのか、乱暴な言いようが時折見られるのが玉にキズかもしれません(「ニセモノだらけの前衛芸術」といった言葉のハシバシばかりでなく内容的にも)。あるいは、氏のことだから聞き手の文字起こし任せにはするはずもなく、茶目っ気(溢れる人柄と私は思う)の表れなのかもしれません。
法的な問題を論じるとき条文解釈を知るだけでは足りず「なぜそのような法律があるのか」「その法律はいかにして成立したのか」「そもそも法とは何であるのか」まで調べ考えた、と。そうした点を踏まえない論者があまりにも多いのが実状です。(余人をもって代えがたいほどの)幅広いテーマ一つ一つに対してそのような姿勢で臨んだに相違なく、改めて氏の言論への信頼が深まりました。