カズオ・イシグロの長編小説『クララとお日さま』、土屋政雄訳、早川書房、2021年発行。
近未来、人工知能を搭載したロボットであるクララの一人称。
クララはAF(人工親友)なる製品の一体です、と書きながら「いやいや一体ではなく一人? 製品ではなく人間?」と悩ましくなるあたりも本作の読みどころと言えましょう。
クララはAFが陳列されている店で買い求められ、少女ジョジーの「親友」になります。ジョジーの重い病気を治そうとクララはあること(「信仰」のような)を試みて・・・
私は翻訳されたイシグロ小説全作を読んでいて氏の人間理解に魅了されてきましたが、本作でロボットの(人工知能の)「気持ち」も分かるのだなあと思わせられます。綴られているあれこれから、なるほどロボットはこんなふうに物事を捉えるのだなと得心できたような気になりました。
本作序盤の「歩道に立って、通りかかるタクシーが空車かどうか見極めようとしている人の目です」のような、氏ならではの心理描写も大好きです。
長編を全作読んでいる村上春樹氏ならではの比喩が、似ているように感じます。