幸田正典著『魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端』ちくま新書、2021年10月発行
ここ数年の間で得られた研究成果なので学界の定説までにはまだ至っていないようですが、私たちのイメージを大きく覆す内容です。
私たちが思う脊椎動物の「ヒエラルキー」は人間を頂点にして霊長類→その他哺乳類→鳥類→爬虫類→両生類そして最下位が魚類(その下に非脊椎動物)といった感じでしょう。ところが・・・
本書ではまず、脊椎動物の脳について解説。よく目にする系統図の通り脊椎動物は魚類を起点にして進化してきましたが、大脳や小脳など6つの脳を有するのは人間から魚類まで全ての脊椎動物で同じであることが今世紀になって分かりました(各脳のサイズや形は異なる)。
脳の構造が共通するのに魚(や「ヒエラルキー」下位の動物)には意識といったようなものが無いということがあり得るだろうか?、と探究が始まります。
本書の柱となる実験、水槽にセットした鏡に写った自分を見て魚はそれが自分と分かるか? 観察結果はタイトル通り「魚にも自分がわかる」。
そして、自分とわかるのは顔を見てであり、他者を識別するのも相手の顔を見てでした。
実験台とした魚ホンソメワケベラを選んだ理由を初めとして実験の方法や手順は詳述されています。少なくとも私には疑問の余地はないと思えました。世界の学者たちからの支持も広がりつつあるとのこと。
「鏡に写った自分」テスト(「マークテスト」)は様々な動物で試されていて、これまでに「合格」したのは霊長類の他アジアゾウとバンドウイルカとカササギ(カラスの仲間)だけ。
イヌやネコさえも「自分とわからない」とされてきましたが、著者はテストの方法に難があったからでそこを改良すれば多くの動物(哺乳類に限らず)が「合格」するだろうとみます。
動物全般の自己意識や心にまで考察を進める本書は、高度な知見を噛み砕いて(しかも面白く)論述する新書の理想形とも言えそうな一冊でした。