大村氏は「おわりに」で、「歩んできた道を振り返ると、すべての中心に(中略)趣味があった」という「私の心得」を図解して載せています(↑一部省略して転記しました)。
美術鑑賞とゴルフが心身の健康や一期一会に資し、研究や社会貢献とも大いにかかわった、と。
2015年ノーベル生理学・医学賞大村智氏が『日本経済新聞』2016年8月の連載に加筆修正した一冊です。
日経朝刊最終面の定番、「私の履歴書」。
各界人士たちは一様に趣味もひとかどですが、どなたも当然ながら業績にウエイトを置いて綴っています。
大村氏「履歴書」もその例外ではありませんが、全体のまとめで趣味をど真ん中に据えるというのは他に例がないのではないでしょうか。
言うに及びませんが、氏「履歴」の柱は「趣味」ではなく「仕事」です。
研究は「世界最高峰の賞」、北里研究所と女子美術大学のトップとして経営と運営を立て直し等々、どれか一つだけでも出来得ないような事を一人の人間がやってのけました。
「銀の匙をくわえて」では決してなかった生い立ちから始まる、80余年の「履歴」。「趣味がど真ん中」ばかりでなく、これぞオンリーワンたる人物像を表わすくだりを挙げたらキリがありません。
「履歴」の一丁目一番地たる研究に関する様々に加えて、北里では人事で大ナタも振るった(「非情」とも映ったであろう)、39歳で始めたゴルフはプレーの前ではなくプレーを終えたその日に必ず練習するようにして5年ほどでハンディ5になった、晩年になって郷里で温泉を掘り当てた等々。すこぶる多面的な人物像でもあります。
研究を初めとしてそれら全てに共通するのは、どうすれば目的を実現できるか考えに考え抜く姿勢です。「考えに考え抜く」という表現がまるっきり軽すぎるほどに。
言わずもがなの付言ですが、以上の感想は第三者による評伝ではなく自伝に基づくものです。