ミヤシンの映画と読書とスポーツ+馬鹿話

子供の時からミヤシンと呼ばれている男です。本や映画やスポーツやニュース等の感想を短く書きます。2016年1月に始めました(2020年4月にブログタイトルを変更しました)。

西村賢太といえば藤澤清造『根津権現裏』

 現代有数にして特異な私小説西村賢太氏が作品の中で必ず言及した藤澤清造私小説根津権現裏』は1922年(大正11年)に日本図書出版株式会社から刊行されました(直後に同社は倒産)。2020年発行のこの角川文庫は、西村氏が入手したその初刊本を底本としています。氏自身が校訂を施しました。

 西村私小説ファンと称するにもかかわらず誠に恥ずかしながら初読でしたが、西村私小説は本作のオマージュでもあったことがよーく分かりました。

 私は文庫本巻末の解説をたいてい読みません。オノレの感想がエライ先生の識見で上書きされてしまうのがイヤだからです。でも是れに限っては西村氏による解説を読まないわけにはいきません。

 清造について、本作について、そして西村氏が「人生を変えられた」本作に対する見立てを小説やエッセイとはまた異なる達意の文章で綴っています(本作を評価してこなかった文学界隈への、そうこなくっちゃ!の毒舌も)。

 清造に対する周囲の見方は「律儀、古風、正義派、好漢、快男児」と「我儘、下悪、ぶっきらぼう、くどい、ねちっこい、ずぼら、引込んでいてもらいたい男」の両面があったとのこと。本作一人称の「私」は、西村私小説の主人公「北町貫多」同様に、独特の諧謔含みで「我儘」以下の後者が強調(または誇張)されています。

 人の亡くなり方を三つぐらいに大別するとしたら、健康について留意すること極少だったと伝えられていて54歳でこの2月タクシー車内で急逝した西村氏は藤澤氏と同じグループに入ると言えるでしょう。

西村賢太氏の遺作

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