行政書士ミヤシンの800字映画評

映画の感想を原稿用紙1〜2枚分でコンパクトに。ときどき書評。たまに・・・。

「順愛」

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高橋順子『夫・車谷長吉』2017年5月発行。妻である詩人・順子が、長吉との日々を回想した手記。

   車谷長吉(2015年死去)は、私小説作家として評価が高く、実在の人物を悪し様に描くことでも知られ、毀誉褒貶が激しかった。

   長吉の想いに応えて1993年に40代後半同士で結婚。誉褒よりも毀貶がはるかに多い性格は十分わかっていたつもりだったが、結婚後 露わになったエキセントリックぶりはそれ以上(以下と言うべきか)だった。小説上ばかりでなくリアルでも人に(順子にも) 悪意ある言葉、 出家を決意していた との言とは裏腹の世俗欲。そのたびに呆れ、憤る日々。だが、順子が結婚を決意した手紙の「この期におよんで、あなたのことを好きになってしまいました」(本作53ページ)という気持ちはその後「どの期」に及んでも変わらなかった。
   それを純愛と言うのはちょっと違う気がする。私は、彼女の名前にちなんで「順愛」と言いたい。夫唱婦随なる意味では決してなく、誉褒<毀貶の長吉をそのまま受け入れたと言うよりも、「どの期」でも変わらぬ「生涯かけて大切な人」(本作33ページ)という想いそのままに日々を送ってきたという意味合いで。

   本作は、長吉と順子を描いた「私小説」たりえてもいるように思う。だとしたら、命がけで私小説を書いていると言っていた彼への何よりの供養と言えるかもしれない。

   結婚初期の「私詩」集(帯には、私詩であるを超え、と)『時の雨』(1996年発行)と併せてお薦め。

 

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