著者郡司芽久氏は1989年生まれの動物学者。軽快なタッチで研究の軌跡が綴られています。
著者は本書発行の2019年時点で、動物園で死亡したキリン30頭を解剖。哺乳類の頸椎は7個と決まっています(例外はナマケモノとマナティだけ)が、キリンは第一胸椎が「8番目の″首の骨″」として働いていることを発見しました。それによって首の可動範囲が拡大、高い所の葉を食べ、低い所の水を飲むことができます。
学部生のとき、勉強した筋肉各々の名称が実際に解剖した筋肉部位のどれに当たるのか分からず立ち往生。ところが先輩研究者から「名前は気にしなくていいよ」と言われ、目から鱗が落ちます。「解剖の目的は、名前を特定することではない。生き物の体の構造を理解することにある」と。
この「目の前にあるものを純粋な気持ちで観察する」姿勢は、私たちの生活や仕事のいろんな局面で大切であり忘れがちでもありますよね。往々にして「名前」を決めつけたり「名前」に囚われたりしてしまいます。
国立科学博物館が1万点を超えるカモシカの頭骨を保管しているなど博物館に数多くの標本が収蔵されているのは、たとえ今は必要がなくても必要とされるかもしれないいつか誰かのためとのこと。それは博物館の理念です。著者も解剖したキリンも骨格標本として収めますし、まさに著者の発見に標本が必要となりました。
こうした標本作りも含まれるであろう「役に立たない」研究や学問を軽んじて「先端研究」だけを優遇(しているとも言えないのでしょうが)するような現下の政策は如何なものかと改めて私は思います。