高名な画家(だった)「小野益次」の1948年からの2年間と
戦前期の回想。その時代、多くの画家が描いたような絵を
彼も描いた。がために画家「だった」状況になっている。
彼を指弾する小説ではない(もちろん、擁護もしない)。そうで「ある」彼の心の揺れのありのままが書き込まれた全306ページだった。
後半になって小野の芸術観が前面に押し出されてくる。タイトルはそのキーワード。
ドラマチックな出来事が次々と起こるわけではない。それでいてページを繰るのももどかしいほどなのは
ケレン味のない 端正な文章
丁寧な描写でありながらのスピード感
スキもムダもない構成
なるがゆえであろう。
余韻も深い。1954年長崎生れ(両親とも日本人)英国育ち(国籍は英国)の著者が書いた、ということも含めて。
ハヤカワepi文庫2006年発行(原1986年) 。
「小野益次」は、多少なりとも藤田嗣治をイメージしているのかもしれない。