演者の動きが少なく(何度か挟まる劇中劇「ワーニャ伯父さん」では身体の動きが大いにあるが)会話劇のような3時間でしたが、退屈なことなど全くなく、時間が早く感じられました。
村上春樹の短編集『女のいない男たち』収録の同名作『ドライブ・マイ・カー』と『シェエラザード』『木野』が元になっています。
こんなふうな話だったかなあ?と9年ぶりに再読してみました。
設定もストーリーも小さからぬ違いがありましたが、まさに「この話」。村上春樹の小説世界が映画表現として構築され、映画だからこその形で昇華されていました。
言わば・・・会話の場として効いていた主人公(西島秀俊)の愛車サーブ、原作では黄色ですが映画では赤。「色」は違えど「サーブ」に違いはありませんでした・・・私は村上春樹の小説を長編は全作、短編は半分以上読んでいるぶんその小説世界を理解しているつもりです。
一昨年の劇場公開は見逃し、このほどCS放映を見ました。各賞総ナメの本作は語り尽くされているでしょう。以下、私が書き留めておきたいことを二つだけ。
結婚生活20年間「精神的にも性的にも相性が良い」(原作本31ページ)主人公夫婦。俳優にして演出家の夫がサーブ車内で聞き込むために相手役のセリフだけを妻(霧島れいか)が吹き込んだテープの呼吸がピタリと合っている等々、仲が良いという「相性」にとどまらない高次の「精神的」結びつきが演技力を含む画面で表しつくされました(「性的な相性」のほうも。性は村上春樹ワールドに絶対欠かせないファクターです)。「深く愛している」「本当に大好き」と車内で言い合ったセリフは不要だったと思えるほどですが、しかし、、、と物語は展開していきます。
原作で描かれたインパクトあるイメージ、水底で揺らめくヤツメウナギ。まるでそのように見えたシーンがありました。それまでは後部座席に乗っていた主人公が初めて助手席に座り、車内で厳禁していたタバコを運転手(三浦透子)と共にくゆらす映像。
「初めて」が重なるそのときの心象も深いのですが、サンルーフから二人が突き出した火が付いているタバコを持つ手の画がまさにヤツメウナギを想起させました。私には思い当たらなかった何らかの含意があったのか、あるいは制作者の遊び心のようなものか、私には分からなかったですが。
岡田将生を含む4人の演技も出色でした。