『人体大全』 ビル・ブライソン箸(桐谷知未訳) 新潮社 2021年発行(原著2019年)
頭のてっぺんから足の先まで、体表から体内隅々まで、そして体内微生物や細菌、さらには受精すなわち生まれる前から死ぬと体はどうなるかまで・・・まさにタイトル通り網羅されています。
惹句は「なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか」。様々な「動き」は日進月歩で解明されてきましたが、まだまだ未解明も数多い・・・現時点でどこまで分かって何が分からないかが余すところなく示されています。
読み終えて一週間、記憶に残っている具体的なことは二つ。
むかし雑誌やなんかに「舌の 甘さを感じる部分、苦さを〜、辛さを〜」が図解入りで載ってましたよね(↓ネットから拾いました)。
とんと見聞きしなくなったと思いきや、あれはやっぱりデタラメ。本書によると、舌全体が全ての味覚を感じるとのことです。
舌の偽情報は、ある論文を米国の学者が誤読したのがきっかけで広まったとのこと。子供のとき信じて何度か試しましたが うまくいかず(うまくいかないのが当然のわけだが)、生来ブキッチョなワタシは舌までもかとプチ自己否定感を覚えたものです。どうしてくれる(笑)。
もう一つは・・・視覚情報は視神経を通って脳が判断するまでコンマ何秒はかかるので「人間は常に過去を見ている」みたいな言いようを私たちはしますよね。
ところが著者に言わせると、起こり得る様々な事態に対応できるよう脳は絶えずコンマ何秒後を「予測」して「提示する」すなわち「わたしたちは(中略)ほんのわずかだけ未来にあるはずの世界を見ている」と(まさに無意識に、ですね)。なるほどなあ。
あ、小さめ活字で行間狭め500ページ弱の中に臓器や血管を初めとして生き死にに関わるもっともっと大事なことがたくさん書いてあったのにアタマに残っていません。
そう言えば、人はなぜ大事なことを憶えられず どうでもよいことを憶えるのか、というくだりがありました。その理由も書いてありましたが、思い出せません。まさに!
著者はベテランのジャーナリスト。製薬会社のロビー活動に関する批判的言及など、たしかに所謂ジョーナリスチックな箇所も少なからず。
これまでの医学上の新発見や新治療法にまつわる人間もようも、ふんだんに織り込まれています。人の心というものの機微もまた「解明」しづらいものでは?と思わせられました。
生まれは米国ですが、英国暮らしが長いだけあってか英国流の皮肉が効いたユーモアも所々に。
本書はコロナ禍直前までに書かれましたが(もちろん感染症およびワクチンについてはページがたっぷり割かれています)、新型コロナが猛威を振るい始めてからの2020年4月に付された「短いあとがき」は次のように結ばれています。
「誰もがきっと同意するはずだと思うことがひとつある。「次回はもっとしっかり備えておこう」。」