三浦英之著 2015年集英社発行 2017年文庫化 開高健ノンフィクション賞受賞
1938年から1945年8月15日まで、かの地に満州建国大学が在った。
大学創設の目的は満州国の国家運営を担う精鋭を育成すること。「五族協和」の旗のもと、日本のほか中国・朝鮮・モンゴル・ロシアから百倍の競争率を突破した学生が集まった
本土を含む日本の勢力圏全体と違って学内には言論の自由が認められ、全員寮生活を送る学生たちは夜な夜な議論を重ねる(激しい日本政府批判を展開する中国人学生や朝鮮人学生もいた)。
「五族」の別なく名実共に同じ釜の飯を食う同窓生となった(まさに表紙写真のように)。
存命者は少なくなった彼らを著者は訪ね歩く。当時の大学生活はどうであったか、「8月15日」以降どのような人生だったか。
日本人3人、そして中国、台湾、韓国、モンゴル、カザフスタン。中国では二人とアポイントが取れたが、当局の介入により一人はインタビュー途中で打ち切りになり、一人とは会うことができなかった。
在学中にそれを痛感していた者もいた、要は大日本帝国のためだった大学。その学歴ゆえの苦難の(という言葉では軽すぎるほどの)「戦後」もあった。
ラスト。二十代のカザフスタン人と三十代の著者、若い世代同士の、ある協和が成ります。
国家が掲げる旗のもとではなく、人対人の。
元ロシア人建国大生がそれを繋ぎました。「私は今、最高に幸せだ」と85歳の彼。(国家対人としてではなく)60年以上前に紛れもなく体感した協和の心が確かに根づいているとも言えるのではないでしょうか。
このくだり、ウルウルしました。
著者は好ルポルタージュ揃い↓↓。いま余人をもって代え難い書き手と思います。