1995年に早逝したスポーツライター山際淳司氏の野球に関して書かれた傑作選。1980年代に発表された12編が収められています。角川新書として2017年に刊行されました。
シーンそのものもあまりにも有名な、氏の代表作が表題作の「江夏の21球」です。一点差を守りきれば日本シリーズ優勝という最終戦9回裏、広島のマウンドに立つのはリリーフエースの江夏。ノーアウト満塁の大ピンチを招き、切り抜けるまでに投じた全21球が克明に描かれました。江夏、ファーストを守る衣笠、スクイズを外された近鉄のバッター石渡と3塁ランナー藤瀬、両監督古葉と西本らの揺れ動く心理を追いながら。
その広島黄金期に中心選手だった、連続試合出場記録を打ち立てて鉄人と言われた衣笠もまた故人ですね。その衣笠を連れて、ニューヨーク州北西部の野球の「故郷」を取材した「野球の『故郷』を旅する」。発祥地ならぬ「故郷」がキモ。衣笠はその地を「野球が匂ってくる町だね」と評しました。
1959年の「天覧試合」巨人阪神戦を題材にしたのが「異邦人たちの天覧試合」です。長嶋茂雄がサヨナラホームランを放ったことで「江夏の~」同様これまた有名な試合。山際氏が目を向けたのは、グラウンドにいたハワイ生まれと韓国生まれの4人の「異邦人」でした。
高校野球で最も知られる「落球伝説」が箕島高対星陵高戦(なぜか本書未収録ながら、氏はそのルポも書いています↓)なら、プロ野球のそれと言えそうな出来事を描いたのが「落球伝説」↓
他8編も「バッティング投手」「テスト生」「ノーヒット・ノーラン」「負け犬」「スローカーブを、もう一度」「〈ゲンさん〉の甲子園」「幻の甲子園と富樫淳」「〈ミスター社会人〉のこと」とタイトルを見ただけで読みたくなる作が並んでいます。