ある年齢幅なら誰もが見覚えのある、ベトナム戦争を捉えた写真。
当時9歳のベトナム人少女キム・フックさん。1972年6月8日、ナパーム弾によって着ていた服はすべて吹き飛ばされ、全身にわたる火傷を負いました。
絶望的な容態。担ぎ込まれた病院を転院させられたあげく遺体安置所に運ばれていましたが、彼女の強い生きる意志が引き寄せたとも思える幸運によって当地で最高の医療処置を受けることができ、一命を取り留めました。
重い後遺症は残り、現在に至るまで彼女を苦しませ続けます。
それから半世紀の人生を追ったのが本書です。
世界的な「有名人」の彼女。米国と戦い抜いた戦争が終結、新国家樹立後のベトナムではプロパガンダ役を担わされ、監視下に置かれました。希望した医学への道は当局の意向により断念させられます。
1990年代キューバ留学中、僅かなチャンスを逃さずカナダに亡命しました。これまた自由を求める強い意志が幸運を引き寄せたとも思えます。
現在もカナダに在住。クリスチャンになり、キューバへの留学生同士で一緒に亡命した夫と家庭を築き、熱心に講演活動を行っています。
「(かつては)私を傷つけた人たちを呪い、私以上の苦しみを味わえばいい、とさえ思った」「本当に、とても難しいけれど、自分自身が自由になるために、ゆるすことを学びました」「写真の私は、泣き叫んでいるのではなく、平和のために声を上げているのだと思ってください」と近年の講演では語っています。
50年前、彼女を病院に担ぎ込んだのは、この写真を撮ったベトナム人写真記者ニック・ウトさん。「サイゴン陥落」の混乱のなかベトナムを離れ、いまも米国で記者として活動中。
二人は現在も交流を続けています。
この写真も受賞作↓
あのバンクシーも写真を「借用」↓